蕩けるくらいに抱き締めて(続き完結)
走っていたせいか、蘇芳先生の手は、とても熱かった。雪愛は俯いたまま、その手を見つめた。

「…離してください…鍵をわざわざありがとうございました…帰ります」

本当は離したくないくせに、そう呟いた雪愛。…蘇芳先生は。

「…離さない…離すわけないだろ?」
「…薫子先生の所に戻ってください」

「…それ、本気で言ってるのか?」
「…」

…本気でそんな事を言いたいわけじゃない。たとえ、本気で言ってなくても、あの場面に遭遇すれば、そんな言葉が勝手に口をつく。

「…じゃ…行こうかな」

思いがけない言葉に、泣き腫らした顔を上げた雪愛。…それを見た蘇芳先生は、酷く顔を歪め、雪愛の顔に手を伸ばした。
触れられた瞬間、雪愛の体がビクッとなった。

「…行くわけない。俺には雪愛だけしかいないのに」
「…キス…したくせに」

言いながら、ポロポロと涙を流す雪愛。蘇芳先生は、その涙を何度も、優しく拭っていく。
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