自殺列車
「愛奈、しっかりしろ!」


旺太が足を踏み出し、愛奈に近づく。


その瞬間、愛奈の目が見開かれた。


「思い出した! 思い出した思い出した思い出した!! 思い出したらダメなのに、外へ出るしかないのに!!」


途端にそう叫び、狂ったように床に頭を打ち付けた。


「あ、愛奈!!」


駆け寄ってあげたいけれど、体が全く動かない。


足はまるでコンクリートで固められているようにビクともしなかった。


「澪は事故、優志は病気、朋樹は喧嘩、あたしは虐待……あんたたちは……」


不意に、愛奈があたしを見た。


その血走った眼に後ずさりをするあたし。


口から血を垂らしながら愛奈がニヤリと笑った。


次の、瞬間……。


何かが愛奈の頭を強打した。


それはほんの一瞬の出来事で、気が付けば愛奈の頭は大きく凹み、そして倒れた愛奈は動かなくなっていたのだ。


時間が止まってしまったようだった。


旺太も、あたしも、その場から動けなかった。


ただ、愛奈は母親の幻によって殺されたのだということだけが、わかっていた……。
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