自殺列車
暗闇の中に黒いスーツ姿の男が現れたのだ。


その男はただそこに立っていて、ジッと俺を見ている。


あの男は……たしか電車から出て来た車掌だ。


どうして車掌がこんなところにいるんだ?


闇に浮かぶその姿はまるで死神のように見えて、俺は強く首を振った。


嫌だ。


来るな!


消えてくれ!!


しかし、車掌はゆっくりと口を開いた。


こんな中じゃ声だってまともに聞き取れないはずなのに、その声は俺の中に入りこんでくる。


「思い出せ。お前の記憶を。苦しめ。同じだけ。ここで償え」


一定のリズムでそう言う車掌。


その言葉は俺の頭の中に直接入り込み、そしてエコーがかかったように響き渡った。


ガンガンと大音量で流れる声にうめき声を上げる。


『ここで償え』


その瞬間、息を吸い込むことができなくなった。
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