自殺列車
「お風呂、今ためてるから。明日も早いから早く寝なきゃね」


そう言う母親は帰ってきてから一度も澪の遺影を見ていない。


だけど、きっと悲しんでいないわけではないのだろう。


澪の遺影の前には沢山の花が飾られている。


忙しくて振り返る暇がないのかもしれない。


「母さん、澪にご飯あげて」


そう言い、美羽さんが小鉢にご飯とおかずを乗せる。


「え……えぇ」


少し困惑した顔を浮かべながら、それを受け取った母親はようやく澪の遺影の前にやって来た。


そして遺影を見た瞬間、その表情が一瞬にして苦痛に歪んだのだ。


手が震え、小鉢をうまく置く事もできない。


「母さん、大丈夫?」


慌てて美羽さんが駆け寄ってくる。


「大丈夫よ……」


鼻をすすり、背筋を伸ばす。


「泣いている暇なんてないもの。お仕事忙しいんだから」


「そうだね。障害者を救う会が軌道に乗ってくるまで、我慢しなきゃ」


そう言い、2人で澪の遺影を見つめる。


障害者を救う会か……。


俺はそう思い、松葉づえをついて微笑んでいる遺影の中の澪を見つめたのだった。
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