自殺列車
ドアの向こうには四畳半の狭い部屋が広がっていた。


部屋には天井付近に細長く小さな窓があり、そこが開け放たれたままになっていた。


そこから差し込む日差しが部屋の床にできた黒いシミを浮かび上がらせていた。


「愛奈……ここで苦しんでいたのか……?」


舌から血を流し、苦しんでいた愛奈を思いだす。


愛奈はきっとこの部屋で殺されたのだろう。


壁にはべっとりと血の後がついていて、もがき苦しんだ時の血の手形が床にはあった。


その場面を想像するだけで胸が苦しくなり、涙が浮かんでくる。


朋樹も愛奈も、どうしてこんな死に方をしなきゃいけなかったんだろう。


自分とはあまりに違う生き方に、呼吸さえ苦しくなってくる。


自分がどれだけ恵まれた環境で生きてきたのか、それを、こんな残酷な形で知る事になるなんて……。


どうして俺は生きている内に幸せだと気が付くことができなかったんだろう。


すごく悔しくて、唇をかみしめた。


その時だった。


足元から冷たい空気が上がってきている事に気が付いた。
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