自殺列車
「え……」


あたしは思わず立ちあがり、朋樹と優志の試合を見つめた。


「マジで?」


愛奈も目を丸くし、近づいてくる。


朋樹は本気を出していた。


顔は赤くなり、手には血管が浮き上がっている。


誰がどう見ても手加減をしている様子はない。


一方の優志も必死に力を入れている。


そして両者とも、腕の位置が微動だにしないのだ。


あたしは唖然としてその光景を見つめていた。


「互角だ……」


澪が呟くように言った。


そう。


この試合、誰がどう見ても朋樹の勝ちだったのに、互角に戦っているのだ。


「嘘だろ」


「信じられない」


あちこちからそんな声が聞こえてくる。
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