自殺列車
「これ、網棚のネジが一本外れて落ちたんだな」


旺太はそう言い、視線を上へと上げた。


あたしは背が小さくて見えないけれど、網棚を固定しているネジが外れているみたいだ。


まぁ、一本くらい外れていても大丈夫だろうけれど、こういうのを放置しているなんて危ない。


点検がちゃんと行われていないのだろうか?


そう思っていると旺太がまた屈みこみ、そしてネジで床に傷をつけ始めた。


ガリガリと音を鳴らしながら旺太は何かを刻んでいく。


「何してるの?」


「今までの出来事を整理しようと思ってな」


そう言われてよく見て見ると、旺太は床にここでの出来事を順序立てて書き出している所だった。


ここには紙も鉛筆もないけれど、こうして文字を書く事ができる。


文字にすれば頭の中で整理もしやすくなるし、あたしは旺太に関心していた。


しかし……。


いくら文字にしてみても、わからない事が次々と起きている中で答えを見つけるのは困難だ。


旺太は最後に《残り30》と書いた。


その瞬間、全身がビリビリとしびれるような感覚に襲われ、呼吸が乱れた。


どこかで見たか、聞いたことのある文字だと思った。


だけど、いつ、どこで?


それが全くわからないのだ。


あたしは何かを忘れている。


なにか、大事な事を……。
< 89 / 222 >

この作品をシェア

pagetop