自殺列車
足元に広がっていた冷気は徐々上へ上へと移動してきて、やがて体全体を包み込んできた。


みんなの吐く息が白くなる。


冬はもう終わったと言うのにこの寒さ。


「今度は何があるんだよ……」


朋樹が呟き、後ずさりをする。


「お、俺はもうたくさんだぞ! こんな異様な空間、もういたくない!!」


朋樹が叫び、車両の奥へと走る。


まるでそれを追いかけるように、暗闇の中から男が1人姿を見せた。


何も見えない闇の中だと言うのに、その男の姿だけはクッキリと浮かんで見える。


黒いスーツを着たその人は、間違いなくホームで会ったあの車掌さんだ。


「なんで……見えるのよ……」


愛奈が震えながら呟く。


あたしは強く首を振った。


寒さと恐怖で体は震え、とても隣の車両を見ていることはできなかった。
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