我那覇くんの恋と青春物語～横西めぐみ編～
歩くというには速く、走るというには遅い。

小走りというと大袈裟で、はや歩きというわけでもない。

そんな説明のつけようのない足取りで向かい、五分しないうちに彼女の家の前まで来ていた。


「もうほっといてよ。ボクだって、いつまでも子供じゃないんだから」


呼び鈴に手が触れようとしたとき、中から大きな物音とともに彼女の叫び声に近い声が耳を通り抜けた。


「あっ」


どうしていいのか分からずその場で立ち尽くしていると、中から勢いよく彼女が飛び出してきた。

彼女は学校の制服のままで、肩で息をしているように息遣いが荒かった。


「ごめん。今日のバイトは休むってマネージャーさんに伝えて。きっと、お兄ちゃんがバイト場に来ちゃうから、よろしくね」


最後まで言い切ることなく、彼女は走り出した。


「身の安全を確保したかったら、キミも早くこの場から立ち去ったほうがいいよ」


こちらに言葉を発する時間を与えず、彼女は視界から消えてしまった。



そういえば横西さんとは仲が良いが、家庭のことは一度も話したことがない。

ただ、毎日のようにバイトをしているのは自分のためではなく家庭のためだ、ということを彼女の親友である小早川エアから聞いたことがある。


「卒業前だというのに大変だな・・・いや、卒業前だから大変なのか？」


そんな独り言を呟きながら、身の安全を確保するためにバイト場へと引き返した。
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