1人ぼっちと1匹オオカミ(番外)

 会社に行って、午後休を申請すると上司から含み笑いのようなにやにやした顔を向けられた。

「蓬ちゃんの誕生日だろ?そうすると思ってたよ」

 入社以来、直属の上司は変わらない。

 上司が異動するたびに俺まで連れて行かれるせいだ。そういえば面接のときもこの人がいたなと思い返して顔をしかめる。

「あの、ずっと気になってたんですけど…」

「ん?なんだ?」

「どうして俺は、あなたの下を離れないんでしょうか…」

「…っぶは!今更それを聞くのか!?もう入社して10年も経つのに…!」

 1度笑い出したらなかなか止まらない。

 腹を抱えて何の遠慮もなくげらげら笑う上司に思わず顔をしかめる。

 仕事はちゃんとできるけど、こういうところはよくわからない人だ。

 思う存分笑った上司は、締まらない顔で俺を見上げる。

「お前の度胸を買ったんだよ。高卒間もない奴が既に子持ちなんて、聞こえ悪いだろ?

 だから普通は隠すはずだ。なのに、お前は真っ向から堂々とそれを言いやがった。それに、子どもが養子だっていえば聞こえもよかったのに、お前は入社までそれを言わなかった。

 能力的にはトップだったしな。俺が部下に欲しいって人事に掛け合ったんだよ。

 だから、お前は俺の右腕ってわけ」
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