1人ぼっちと1匹オオカミ(番外)

「…何やってんだ?」

 騒ぎ声と、人の動く音、笑い声で埋め尽くされているそこにその声はやけに響いた。

 足が止まる。声がやむ。視線が、外れていく。

 少し離れた場所にいたのは、晴野だった。

 入学式以来、一切口を聞いていないはずの晴野だ。

 こいつはなぜか次の日の係決めでめんどくさそうな学級委員に推薦されて、入学後初のテストで学年2位の成績だった。

 いい子で、まじめな、模範生。

 早くもそんな人物として1年の間でも有名になっているはずの、晴野がなぜかこんな現場に出くわしている。

 バカかよ。妙な正義感で、声かけてんじゃねぇよ。

 お前までこんなにされたら、俺は、お前を巻き込んじまったことになるだろうが…!

 晴野はゆっくり歩み寄ってくる。その顔はあまりにも静かに番長を見据えている。

「1年生囲んで何してるんすか」

「っは、ちょっと礼儀ってのを教えてやってたんだよ」

「礼儀、ねぇ。…そいつ、俺の友達なんですよ。…返してもらえません?」

 晴野が止まる。まっすぐに番長だけを見つめて。

 あれ、そういえば晴野の奴なんで番長のこと分かったんだ?

 確かに後ろに下がってはいたが、1番後ろにいるわけでもなければ誰かに守られているような位置に番長はいなかったのに。

 こいつは初めから番長だけを見て話を進めていた…。
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