1人ぼっちと1匹オオカミ(番外)

 手に持っていた紙切れが奪い取られる。

 あきくんは優しさをどこかに忘れてきたかのような目で私を睨み付ける。

「…3月末までそこの寮に留まるそうです。それまでに、行ってください」

「…お前のそういうところ、大嫌いだ」

「ッ…ごめんなさい」

 あきくんは、背を向けて歩いていってしまう。顔を上げてその背を見つめても振り返ってくれることはない。

 私は、何を期待していたんだろう。喜んでくるなんて思ってたのかな。あきくんは、一刻も早く居場所を知りたかったはずなのに…。

 情報屋、やめて正解だった。大好きな人の本当の思いに気づけずに、ただ自分のエゴで伝えることを引き伸ばしてしまった。

 こんなの、情報屋のやることじゃない…。

「バカだ、私…。大バカだ」

 家の方向に足を向けて歩き出す。

 バカだ、本当に、大バカだ…。

 うつむいたまま、足を進める。泣きたいわけじゃない。だけど、ちょっと上を向いて歩くのは辛い。
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