1人ぼっちと1匹オオカミ(番外)

「こ、ここに親父がいます!俺は…」

「んなこと聞いてねぇよ!!」

「っく、は…」

「親父が今どこにいようが知るか。貸した金、きっちり返せねぇって言うなら、体で払えや!」

 曲がりそうになったところを慌てて足を止めて思わず隠れる。

 …今の、あきくんの声…。

 曲がり角に体を隠しながら、そっと顔だけを覗かせて様子を見る。

 2階建てのアパート。道路に面したドアが1階、2階それぞれ4つずつ並んでいる。そのちょうど真ん中に外階段。その外階段がすぐ前にあるのがあきくんの部屋。

 その部屋の前に見慣れない男が3人。そして、アパートの前には黒のワゴン車。

『よもも、いかにも俺らと同職な奴らがこの辺で目撃されてる。そいつらには気をつけろ』

 若さんの言葉がよみがえる。…そんな、まさか。

『借金取りなんだが、その利子が明らかに不正だ。返せなくなった奴の、特に子どもだな。誘拐されて、鉄砲玉や、風呂屋に流されてる。一般にも被害が出てて、ほっとけねぇ事態になった』

 さっき聞こえてきた声は、貸した金を返さないなら、体で払えって…。あきくんが言いかけたのは、お父さんの居場所。

 …まさか、あきくんのお父さんが昔借金していた先って…!

 ひときわ鈍い音。

 はっとして視線を向けると、あきくんが強引に男たちに引きずられていて…。
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