天使は唄う
「そうか。気が変わったら教えろ。」
「変わらないぞ。私は。」
キャロルが答えると同時にミカエルは姿を消した。
「……」
それを見送ると、自分の手を見る。
「——どうして、こんなにも穢れているのに天使を名乗っているのだろうな。」
自嘲気味に言う。
(生まれた時から、私は殺戮者だ。)
そう思う。

彼の生まれは貧しい家。
仲睦まじい両親と姉と兄。
キャロルはその末っ子として生まれる。
だが、その時に悲劇が起こった。
出産を控えた母が高熱で倒れてしまった。
それにより、キャロルは早産で生まれる。
母はキャロルを産んだと同時に死ぬ。
それにより、父は豹変してしまった。
毎日酒を飲んで暮らす。
当然、兄と姉でそのお金は調達することになった。
姉はキャロルを世話しながら懸命に働き、兄はどんな危険な仕事も引き受けた。
その最中、父は身体を悪くして死んでしまう。
酒の飲みすぎだと医者は言う。
兄も働き先で無理が祟って死ぬ。
そして、姉はキャロルを5つになるまで賢明に育てた。
心が優しい姉に育てられ、キャロルは優しい美しい少年に成長した。
それに目を付けた奴隷商人が姉を殺し、キャロルを誘拐した。
キャロルは奴隷市場をたらい回しにされる。
しかし、不思議なことが起こった。
買い手はキャロルを買収して数ヶ月で次々と死ぬのだ。
商人も同じだった。
やがて、ひとが寄り付かなくなり、食べていけずに死ぬ。

その時に迎えに来たのはミカエルだ。
「何故、死ぬのかが気になるだろう?」
そう言った。
「お前は天使に守られている。」
「その、守ってくれた天使は」
「俺だ。」
ミカエルは言う。

そして、天界で暮らすことになった。
天使として神の為に戦う。
その心には生前のことがはっきりと記憶されている。
家族の死は自分が生まれなければ防げたのではないか。
商人や買い手も、天使に守られた自分が生まれなければ死ななかった。
堕天使を狩るように言われた時も思っていた。
これ以上、誰も自分のせいで死なないで欲しいと。
見逃すという概念を持たず、神の命令を忠実にこなす間もずっと思っていた。
自分で死ぬことも、態と殺されることも神に背くことだと思うと出来ない愚かさも心底嫌だった。
自身を嫌う。

「キャロル。」
そう声をかける人物。
「メタトロン。何故、此処に?」
「叫ぶ声が聞こえたものでな。」
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