天使は唄う
メタトロンと呼ばれる人物は言う。
「天使の声を発した覚えはないが。」
キャロルが言う声は、人間に聞き取れない天使の言葉のことだ。
天使が天使同士に連絡するときに使い、その声は人間の声よりも遠くへ届くという。
「素直ではないな。」
「君まで私を誂うか。」
キャロルは不愉快そうだ。
「ウリエル。」
「その座は私のものではない。」
「おや。ミカエルが真っ先に貴方を候補として上げたからてっきりそのつもりだったが。」
「ラファエルやガブリエルが納得するものか。」
「それがな」
メタトロンは考え込む。
「納得した。」
「!?」
キャロルは驚く。
「あの、2人が?」
「そうだ。天界一、馬が合わないあの2人がだ。それだけ、評価されているということだ。」
「……ミカエルが脅したのでは?」
「さぁ?」
メタトロンは首を傾げた。
「だが、堕天使狩りよりも良い仕事だと思うがね。」
キャロルは首を振る。
「これがお似合いだ。」
「謙遜か、自虐か。何れにせよ、ミカエルは考えをそう変えないぞ。説得するのは骨が折れる。」
するとまじまじとキャロルがメタトロンを見る。
「暴力を振るわれるのか?」
「違う。そうじゃない。……君に例え話は100年ほど早かったらしい。」
メタトロンはキャロルに呆れた。
「それだけ、苦労するということだ。」
そう言ってキャロルを見る。
「いつまで、自分を嫌うつもりだ。好きになれとは言わないが、そんな考えで何が救える。」
「救うつもりはない。」
キャロルは言う。
「神に殺されるまで、この身が朽ちるまで、従うだけだ。」
「頑固だな。」
「そういう生き方しか出来ない。」
メタトロンはふぅと溜め息を吐く。
「神も困っている。早いところウリエルの座を埋めてもらわねば。」
“強制はしない”と言い残し、メタトロンは去った。
「はぁ。」
キャロルは息を吐く。

月日が過ぎ去る。
それは、天使には短い時間だ。
ウリエルが居ない天界。
だが、3人の天使と神により統率が取れていた。
やがて、制度は4天使と神が統率する制度から女神が天使を統率する制度へ変わった。
神が頂点に立ち、選ばれた女神が他の女神の役割を割り振る。
そして、天使を統率する。
初めは女神に反発する天使が居たが、それは少しの時間だった。
神に従う天使は女神にも従った。

キャロルは虹の女神“イリス”の配下になった。
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