天使は唄う
本人は“このままだと他の天使に見られて非難を浴びるかも知れないから”という理由まで伝わっているつもりだが、そんなことは誰にも伝わるはずもない。
「ウリエルが見たら切り落とすかもな。」
「その冗談、笑えない。」
「半分は本気だ。」
ミカエルは表情を変えない。
アルテミスもまた、同じ表情だ。
「私を呼んだか?」
ばさっと羽根が舞うと、美しい顔立ちの女が現れる。
眩しい程の美しい金髪に宝石のように青い目。
真紅の唇から紡がれるのは硬い声音。
「いいや。」
真顔でミカエルが言う。
「貴方がどうしてここへ?」
「役目を終えた。イリスに報告をしに通りかかっただけだ。」
「あぁ。」
また癇癪を起こされるだろうなとアルテミスは予想する。
アストライヤーが不憫だ。
「イリスに会いに行くならばその高圧的な態度を改めてから行け。」
「高圧的な態度?どこがだ。」
ミカエルにウリエルは心外そうだ。
「解らないのなら仕方ない。冗談の1つでも覚えることだな。」
「冗談、か。そういう感性が私にはないことを知っているはずだが。」
「イリスが癇癪を起こすのはお前のそういう態度のせいだぞ。」
そう言っているミカエルもイリスの機嫌を損ねている1人なのだが。
嘗てはミカエルはアルテミスとアポロンにより統率された天使の1人だ。
彼の性格は嫌というほど知っている。
大天使という地位に引けを取らない態度。
誰もが距離を置く存在。
「冗談の練習でもした方がいいか?」
真面目に訊いてくるウリエルを非難するのは気が引けるが、ミカエルは気にしていないようだ。
「そうだな。」
真剣に相槌を打つ。
「では、ここにアルテミスが居る。」
「!?」
「彼を練習台にするといい。」
「ミカエル!?」
アルテミスは唖然とする。
「何だ?俺は監督だ。」
ミカエルは仏頂面で言う。
内心面白がっていることくらい解る。
そういう性格だ。
真面目なウリエルと違って、役割を全うすることは変わらないがこうやってからかってくる。
「解った。」
(了解したよこのひと!!!)
アルテミスはウリエルに驚いた。
流石に誂われたと分かるだろうと思ったからだ。
「冗談とは、愛嬌がある嘘だと誰かが言っていた。決してそれにより傷つけてはならない。それは冗談ではなく暴言だと。加減が難しいが暴言ならば遠慮なく言ってくれ。」
「あ、あぁ。」
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