クレソン・スピリッツ
しばらくすると小舟がガーベラ通りに着いた。
客が順番に通りに降り立つ中、
ソーニアがミケルの袖を引く。

「ねえ、ミケル」

「何でしょう。ソーニアさん」

「さっきの返事、聞かせてもらってないわ。
ご一緒しないか聞いたでしょう?」

「ああ、そうでしたね」

ミケルはソーニアの頭に手を乗せた。
優しく髪を梳きながら、

「丁重にお断りします」

「……ミケルも贅沢な男なのね」

「申し訳ありません」

ソーニアは不貞腐れてソッポ向いた。
ミケルはポリポリと頬を掻き、
よく通る声で言う。

「生憎、心に決めた女性がいますので」

「……そう」

ソーニアは困ったように笑った。
あの場で自分に恥をかかすまいと、
話に付き合ってくれた
ミゲルの気遣いが分かったからだ。

「ソーニアさん」

「何?」

「次は、きっといい人と出会えますよ」

「フッといてよく言うわ」

ソーニアの表情は、明るかった。
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