その傷に契約を、その傷に唇を。
そして蓮は耳元でそっと呟いた。


「じゃあ、俺の言うことだけを聞いて一生生きていけ」


それはもう解けない呪縛のように、甘い鎖のように。


「和花、これは契約だ。俺たち、ふたりだけの」


蓮の右腕の傷がわたしたちの今の関係を作り上げた。


蓮に告白もできないまま、蓮が呼びたいときに呼んで蓮が抱きたいときにだけ抱かれる。


蓮がわたしに気持ちがないのに抱かれてるなんて嫌だ。


だけど、それでも求めてしまう。


蓮のことが欲しくて欲しくてたまらないわたしはこの歪んだ関係を断ち切ることはできない。



そんな関係だ、なんてあーちゃんに言えない。


「ねぇ。今日、菜穂ちゃんと帰ったのになんでわたしを呼び出したの?」


蓮は菜穂ちゃんと一緒に帰るとき、わたしを呼び出すことはほとんどない。


だから不思議に思った。


なんで“命令”してまでわたしを呼んだのかな、って。
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