その傷に契約を、その傷に唇を。
「…別に」


普段から口数は少ないけど、こういうときの蓮に何を聞いても無駄だと、十数年間幼なじみをやっていて理解している。


でもやっぱり話してほしいと思うのはわたしのわがままかな?


昔はいろんなこと、たくさん話してくれたのに。


「蓮、わたしそろそろ帰るね」


怠い身体をなんとか起こし制服に袖を通した。


「次の休み…」


後ろからボソッと声が落ちてきて振り返る。


「空けておいて」


蓮は後ろを向いているから表情は伺えない。


気持ちなんかなくても、好きな人からの誘いに舞い上がってしまう自分がいる。


あっ、だけど、


「ごめん。次の休みは予定があるんだ」


あーちゃんに街案内してあげる約束しちゃってる。


「あいつと出かけるんだろ?」


「意地悪。知ってて誘ってきたでしょ?」


そう言ってむくれると面白そうに蓮は笑った。
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