その傷に契約を、その傷に唇を。
すぐに喋るわけでもなく、蓮は電話を手にしたまま話そうとはしない。


そして少し間を開けて口をひらいた。


「もしもし?…うん、俺。蓮。…あぁ和花、今電話に出れる状態じゃないから代わりに俺が。…うん、急用ができて今日行けなくなったみたい。…今?目の前にいるけど、変わる?」


わたしに視線を移して楽しそうに笑う蓮。


こっちは全然楽しくないって!


めいいっぱい首だけを横に振って蓮に合図する。


「残念、今出れないって。…うん、伝えておくよ。…なに?…あぁ、俺も嬉しい。…じゃあ、また」


電話を切った蓮はゆっくりとわたしに倒れかかり、首元に唇を這わす。


「ちょっと!なに勝手にあーちゃんとの約束断ってるのよ!!」


「今から行く?別にいいけど、その首元の紅い印付けたまま行くの?」


わかってて付けたんだ。


蓮はわたしにいつも印をつけていく。所有物の証かのように、それこそ何度も。


「わかれよ…和花」


そして蓮は苦しいくらいにわたしを抱きしめる。


「俺のことだけ考えてればいいんだよ」


ねぇ、蓮。


わたしはいつも、蓮のことしか考えてないんだよ。


昔から、ずっと。
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