その傷に契約を、その傷に唇を。
「まさか、転校先に和花がいるとは思わなかった」


「わたしもあーちゃんに会えるとは思わなかったよ」


放課後、昔の幼なじみということで校内の案内を先生から頼まれたわたしはふたつ返事で了承した。


「この渡り廊下の先が体育館だよ」


「ありがとうな、和花。でもまだ覚えきれないから案内してくれよ」


そう言うあーちゃんに昔を思い出してクスクスと笑ってしまう。


「ん?なんか俺、おかしなこと言った?」


「ううん、違うの。だって昔はよく探検ごっこって言ってあーちゃんがいろんなとこ連れて行ってくれたけど、今は逆転してるなぁって思って」


「ハハッ、そんなこともあったな。和花と蓮を連れていろんなとこ行って。そう言えば蓮は?あいつまだ和花のあと追いかけ回してんの?」


「…そんなことないよ」


そんなことない。


蓮も昔はよくわたしとあーちゃんが遊んでるあとを必死になって追いかけてきた。


でも、今は逆。


わたしが蓮のあとを必死に追いかけている。
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