ありふれた吹奏楽部の物語。
ありふれた吹奏楽部の物語。
合格発表が終わっても、顔のほころびが取りきれない新入生が続々と体育館に集まり始めていた。

「そろそろ移動します!」
部長の掛け声とともに、ひと際きらめく楽器と譜面台で両手がふさがった吹奏楽部員が音楽室からずらずらと現れた。

楽器をぶつけて反射的に「ごめんなさい!」と謝るトランペット、バランスを崩して床に楽譜を散らかすサックス、ドラムセットを慌ただしく運ぶパーカッション、音の鳴りを確かめるクラリネット。冷んやりしていた廊下は吹奏楽部員の渋滞で一気に騒々しくなった。

吹奏楽部員の移動は落ち着かない。
軽い楽器の人はだらだらと緊張を語りながら歩くし、重い楽器の人は厳しい顔をして淡々と歩く。一番慌ただしいのはパーカッションで、廊下を何往復も繰り返す。
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