何でも屋と偽りのお姫様~真実の愛を教えて~
気が付けば定時を過ぎていた。
よっぽど集中していたのかあっという間に時間は過ぎていた。



「疲れたっ……」



んっ、と伸びをすれば背中からポキッと音がする。
縮こまった体が伸びていく気がする。


解放感に見舞われながらパソコンへと目を向ける。
誤字脱字や、変なミスがないかを確認して印刷をする。



「部長」



まだオフィスに残っていた部長に印刷した資料を渡す。



「え……?もう出来たんですか?
今日中じゃなくても良かったのですが……」



驚く部長はざっと資料に目を通す。
しばらくして、部長の唇が緩やかに孤を描いた。



「もう完璧ですね」

「そんな事ないです。
精進できる様に頑張ります」

「き……如月さん!
頭を上げてくださいっ……!!」



頭を下げればアタフタする部長の声が聞こえてくる。
そんなに焦らなくてもいいのに、そう思いながら顔を上げようとすれば部長の声が更に高くなる。



「しゃ……社長!?」

「梓沙が何か迷惑を掛けたか?」

「いえ、とんでもございません!
如月さんはよくやってくれています。
今も短時間で資料を……」

「部長、その話は……」



そんな大したことじゃないし、言いふらすような事でもない。
そう思い口を挟めば部長は察した様に言葉を変えてくれる。



「彼女の働きには本当に助けられております!」

「そうか、ならいい。
もう仕事は終わったか?」



部長に向いていた視線が今度は私に向く。



「はい」



小さく頷けば拓哉さんは私の手を取った。
そして私のデスクに行くと、私の鞄を掴み再び歩き出す。



「じゃあ行くぞ」

「お疲れ様でした!お気をつけて!」



いきなりの行動に言葉も出ない私。
ぺこぺこと頭を下げる部長。
強い力で私の腕を引っ張る拓哉さん。


彼に引きずられる様に私はオフィスを後にした。
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