何でも屋と偽りのお姫様~真実の愛を教えて~
秘書の件はとりあえず保留になった。
ひとまず、安心だ。


だけど、私の心には迷いが生じ始めていた。
私はこのまま拓哉さんの傍にいてもいいのだろうか。


いつからかそう思う様になった。
いや、ずっと前からそう思っていたのかもしれない。


でもそれは拓哉さんが好きだと言う気持ちが上回っていたから何とかやってこれたのかもしれない。


だけど、今の私はあの時とは違う。
拓哉さんの事をハッキリ好きだとは言えない。


傍にいて守りたいとは思う。
だけど、彼への恐怖が強くなっていくばかりで彼が好きという想いは分からなくなっている気がする。




「……梓沙、どうした?」

「い、いえ何でもないです」



車の中で肩を寄せ合いながら座っている今でも、拓哉さんへの恐怖で胸がいっぱいだった。


彼が怒らない様に、機嫌を悪くさせない様に。
そればかりが頭を支配していた。


これって好きって言えるのかな?
膨らんだ疑問はなかなか消えてはくれなかった。



「到着しました」



執事さんの声が私を現実へと引き戻す。
窓の外を見れば見慣れた大きなお城みたいな家が建っていた。



「……」



それを見ると胸が急に苦しくなる。
ココは私のいるべき場所じゃない。
私がいたい場所じゃない。


胸に膨らむ想いが私の心を蝕んでいく。
でもなすすべなく私は自分の足で今日もあそこへと帰っていく。
< 163 / 430 >

この作品をシェア

pagetop