何でも屋と偽りのお姫様~真実の愛を教えて~
放心状態の私が連れてこられたのはパーティーが行われているホテルのスイートルームだった。
広くて綺麗な部屋に気後れしないのは……
拓哉さんの部屋に慣れてしまっているからなのか、私の心が壊れたからなのか、どっちなのだろう。


そんな事を考えていれば社長の手が前触れなく私の太腿へと移動していた。
ドレス越しに大きな手が這う。



「や……止めて下さ……」


抵抗しようと身を固める。
でも、頭の中でお義母様の冷たい声が響いた。


『貴方に拒む権利なんてないわ……柊家の名に泥を塗るおつもり?』


その言葉が私の心を締め付けていく。
抵抗する気力すらなくなり私は社長に身を任せる様に目を閉じた。


私は所詮……“操り人形”だ。


私の意思も心も……。
何もいらない。


柊家に相応しい身分がない私の役目は……。
ただヘラヘラ笑顔を浮かべて、愛想のいいフリをしながら従順な人間を演じる事だ。



「ふっ……やっと大人しくなったね。
そう……それでいいんだよ」



洗脳をするかのような優しい声に導かれる様に私の体はゆっくりと倒れていく。


柔らかい感触に包み込まれた背中。
ベッドに押し倒されたという事は簡単に分かる。


社長の手が私の顔に触れている。

気持ちが悪い、そう思うのに……。
抵抗する気力が出ない。


私はどうせ……操り人形。
心なんかいらない。


もう……どうにでもなれ。
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