何でも屋と偽りのお姫様～真実の愛を教えて～
「っ……うぅ……」



遥斗の家を出た瞬間、私はその場にしゃがみ込んでしまった。
扉に背を預けて、壊れたかの様に泣きじゃくる。


瞳から溢れ出す涙を止める術は私には分からなかった。
声が漏れるのを必死に堪える。


涙が止まらない。
でも何で私はこんなに哀しいの？


遥斗と体の関係を持ったという事は私にとっては知られたくない事だ。
だから遥斗が忘れろと言った時、普通なら安心するはずなのに……。
安心どころかこんなに苦しくなるなんて……。


流れ落ちる涙がポタリとコンクリートに吸い込まれていった。



「馬鹿みたい……本当に馬鹿だ……」



遥斗と寝た事よりも、遥斗に忘れろと言われた方が哀しいなんて……。



拓哉さんへの罪悪感よりも、遥斗に拒絶された事が胸を苦しめる。
どうしようも出来ない気持ちをぶつける様に私は地面を掌で強く叩きつけた。


ジワリと痛む手を抱きしめながら静かに目を瞑る。
辛いはずなのに思い浮かぶのは優しい笑顔をした遥斗の顔だった。



「遥斗……遥斗……」



背中越しの扉の向こうには遥斗がいるのに、こんなに近くにいるのに……。
この1枚の壁は凄く高く感じた……。
< 215 / 430 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop