何でも屋と偽りのお姫様～真実の愛を教えて～
「何なんだアイツは……」

「拓哉さん？」

「……梓沙、俺から離れるな」



拓哉さんは私を抱きしめたまま扉を睨みつけていた。
その瞳は怒りに見ていているのに、どこか哀しそうなものだった。



「お前が俺から離れていきそうで怖い」

「え……」

「どんどん遠くなっている気がする。
こんなに近くにいるのに……」



拓哉さんの声は震えていた。

どうしていいか分からなくて、私は彼の体を抱きしめた。


鼻を掠める香りはスパイシーなものではない。
拓哉さんの匂いだ、ずっと一緒だった彼の香り。


なのに私の心はスパイシーな香りを求めていた。
遥斗から香るあの危険な匂い。


私を触るあの優しい手つきも……。
乱暴なのに、ビックリするくらい優しいキスも……。
あの温もりも。


全部全部……消えてはくれない。


拓哉さんにこうして抱きしめられているのに……。
思い出すのは遥斗の笑顔だった。



「私はココにいます。
貴方の傍にいますよ……」



口ではそう言っているのに頭を支配するのは遥斗の存在だけ。


それを振り払う様に私は拓哉さんに抱き着いた。
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