何でも屋と偽りのお姫様～真実の愛を教えて～
「そういう事だ」



勝ち誇ったように拓哉さんは小さく笑うと音を立てて何かを破いていく。



「貴様は会社社会に馴染めずこんなくだらない会社を作った。
いわば……負け犬だ」



そう言いながら拓哉さんはビリビリに破いた何かを宙へと放り投げた。


名刺……。
頭に浮かんだのは五十嵐さんの名刺だった。


小さな紙と化した名刺は儚く地面へと吸い込まれていく。


その光景に胸が痛むのが分かる。


何もここまでしなくても……。
そう思ったが私は何も言えなかった。



「その負け犬に足元をすくわれねぇようにな？」

「小癪な……貴様と話すだけ時間の無駄だ。
……行くぞ梓沙」

「あっ……」



無理やり拓哉さんに手を引っ張られる。



「お前が自分の足で歩きたいって本気で思う日が来たら俺の所へ来い。
俺はいつだってお前の事を待ってるから！！」



後ろから聞こえる声に導かれるように顔を向ける。
そこには優しく笑う五十嵐さんが見えた。
彼は決して私たちを追いかけようとはしない。
待っているんだ……私が自分の意志で道を決める事を……。



「梓沙、あまり俺を怒らせるな」

「……」



隣から低い声が聞こえた。
それと同時に握られた手に痛みが走る。
拓哉さんを見れば無表情だったが、その顔には怒りが籠められているのが分かった。
この怒りは私が招いたものだ。
だから……痛みに我慢しながら拓哉さんの手を握り返す。



「……」



拓哉さんは何も言わなかった。
でも、さっきまで痛いくらいに握られていた手が心地の良い力に変わっていた。
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