何でも屋と偽りのお姫様～真実の愛を教えて～

「拓哉さ……」

「黙っていろ」

「んっ！！」



無理やり奪われる唇。
抵抗しようとしても力の差が歴然でどうあがいたって敵わない。


真っ直ぐに部屋に戻ってきた私たち。
部屋の中に入った瞬間に拓哉さんは私を壁に押し付けながらキスを繰り返していた。
激しいキスに頭が真っ白になりかけた時、私の脳裏にはある光景が浮かんだ。


私と五十嵐さんがぶつかった時の事だ。

ダンスのポーズの様な姿勢で五十嵐さんに助けられた。
まるで王子様の様な彼の笑顔が頭いっぱいに広がった。



「……いやっ……」

「……梓沙……何を考えている」

「あの……」

「何を考えていると聞いているんだ」



冷たい目が私に向けられる。
何も答えれずにいるとバンッと激しい音が響き渡る。



「た……拓哉さ……」

「あの男の事か？」



冷たい声よりも、拓哉さんの拳に驚いた。
彼の手は薄らと紅く染まっていた。
恐る恐る後ろを見れば私のすぐ横の壁が僅かだがへこんでいる気がした。