何でも屋と偽りのお姫様~真実の愛を教えて~
「もしもし……」

『梓沙……梓沙か!?
今どこにいる?早く帰って来い!』



電話越しに聞こえるのは私が嘗て愛した人の声。
拓哉さんにお別れの電話をした私の手は小刻みに震えていた。


やっぱり声を聞くと拓哉さんの事を思い出してしまう。
大好きだった日の事も、恐怖で震えあがっていた日の事も……。



「私は……もう貴方の元へは帰れません」

『ふざけるな……お前は俺のモノだ。
どこにも行くな……』

「あっ……」



低い声に何も言えなくなってしまう。
怖くて怖くて……。
今にでも彼の元へ帰って怒りをおさめた方がいい。
そうじゃないと拓哉さんは何をするか分からない。
頭でグルグルとよくない事ばかり考えてしまう。



『梓沙、お前は俺を捨てるのか……?
離れないって言っただろう。ずっと傍にいるって……』



拓哉さんの傷ついた声が私の耳を支配していく。


そうだ、私は彼と約束をしたんだ。
拓哉さんとずっと一緒にいるって……。


それなのに私は……。
遥斗を愛してしまった……。
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