何でも屋と偽りのお姫様～真実の愛を教えて～
「なるほどな……。
そのセクハラ親父に腹を立ててるって訳か」



私の話を聞いた五十嵐さんは壁に背を預けながらタメ息をついていた。



「はい。
どうしたらいいか分からなくて……」



会社の事を思えば我慢した方が良いのだろうけど……。
私個人としてはそんな事は絶対に嫌だ。
だからと言って問題にする訳にもいかないし。
悩む私に五十嵐さんは不思議そうに言葉を放つ。



「お前は馬鹿か。
嫌なもんは嫌だって言えばいいだろーが」

「え……。
でも取引相手なんですよ！？」

「だから何だよ？
お前は取引の為なら簡単に体を売る奴なのか？」



五十嵐さんの言葉に私はぎゅっと拳を握った。
そして面と向かって怒鳴り散らす。



「そんな訳ないでしょ！？
私はそんな事しない！！」



私の怒鳴り声に反応する様に道行く人たちに注目されてしまう。
その途端にまた顔が熱くなっていく。


「……ここじゃあれだ。
移動するぞ……時間大丈夫か？」

「だ……大丈夫です……」



取引先に行ったら直帰して良いと言われていた私は小さく頷いた。
今はとにかくこの場を離れたい。


熱くなった頬を隠す様に俯けば五十嵐さんは優しく私の肩に手を回す。



「これなら見えないだろ」



上から降ってくる優しい声。

もしかして私の事を想ってやってくれているのだろうか？

紅く染まった頬が誰かに見られない様に……。


そうだとしたら……この人はどれだけ優しい人なのだろうか。


私の肩を抱きながらゆっくりと歩く五十嵐さんを盗み見る。
整った顔つきに見惚れながらも彼の優しさに甘える事にした。
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