何でも屋と偽りのお姫様~真実の愛を教えて~
「……悪かったな。
いきなりキスなんかして」



遥斗はすぐに笑顔を浮かべていた。


でも……。
いつもの優しい笑顔はどこにもなかった。


笑顔の裏に哀しさが隠れている様な、そんな気がして涙が出そうになる。



「遥斗……私……!」

「ほら次この服を着て来いよ」

「……うん」



突き放されるように言われた言葉に何も言えなくなる。


今……遥斗に壁を感じた。
顔は確かに笑顔だった。


でも……冷たい瞳で……。
全てを拒絶するような目で見られた気がした。



遥斗に渡された服に着替えた私は鏡の中を見つめていた。


鏡の中の私の右頬にひと粒の雫が流れ落ちる。



「うぅ……」



頬をつたりゆっくりと床へと吸い込まれていく涙。

胸に走る痛みを我慢しながら私は床へとしゃがみ込む。



「はる……と……」



押し殺す様に絞り出す声で、遥斗の名前を呼んでいた。
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