男の秘密
車内を見渡すとシートは革張りでフルスモークの窓に高そうな内装。

『忍さんのシートもこんな感じだったわね・・・もしかして二人ともそっち関係のお仕事?!』

先程までの出来事がすっかり頭から抜けて、忍の仕事の事が気になりだした。

「え、と。優だよな?」

運転席に座った男性が、後部座席の優に身体を向けて尋ねた。

「は い。斉藤優です」

『何で名前を知ってるのかしら』

急に話を振られて言葉に詰まりながら答えるが、自分の名前を知っている事を訝しく思った。

「俺は木戸和也(きどかずや)よろしく。」

「こちらこそ、宜しくお願いします」

にっこりと笑いながら名乗られたが、よろしくとはどういう意味か図りかねるので、微妙な顔つきで返答した。

「取りあえず車出すな」

そう言って木戸は静かに車を発進させた。

車の性能も良いのだろうが、木戸の運転が上手なせいで殆ど揺れを感じず走る車内は、BGMの洋楽以外の音が無かった。

何を話して良いのか分からない優は黙っているしか無く、少し緊張していたが、不意に木戸が話し出した。

「おまえんちで良いか?」

「え、あ、あぁ」

返事をした忍は後部座席のドアにもたれていて、表情は分からない。

ただ、乗り込んだときから優の手を握ったままなので、落ち着いてくるとその事が気になりだした。

木戸からは見えない位置だが、もし見られたらと思うと恥ずかしくて俯いてしまう。

少ない会話のまま、忍の家だというマンションに着いた。
< 113 / 246 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop