男の秘密
優はタクシーの運転手にお礼を言って、男性を支えながらマンションに入る。

二機あるエレベータはどちらも一階で止まっていたので、すぐに乗り込む事が出来た。
エレベータ内でも男性は角に寄りかかるようにして、立っているのがやっとの状態に見える。
何も出来ない事がもどかしく思える。

3階にエレベータが到着し、男性を支えながら部屋まで連れて行く。

今日は少し時間が遅いので、ここまで誰にも会わずに辿り着いた。

鍵を開け、室内へ男性を連れて行きベッドまで運んだ所で優も力尽きた。
荒い息を吐き、寒かった筈の体は汗ばむほどになっていた。

だが、男性の下に掛け布団がある。
このままでは寒く風邪はますます悪化するだろう。
少し呼吸が整ってきた優は立ち上がり、押入れから毛布と掛け布団を出す。

これは友人が泊まりに来た時用に用意してある布団セットだ。

男性はスウェットの上にフリースの上着を着ていたので、上着を脱がせる事を試みる。

これが思った以上に大変だった。

意識の無い人間の、しかも自分よりかなり背の高い男性となれば体の向きの反転も思うように行かない。
四苦八苦した末に何とか脱がせる事に成功し、やっと布団を掛ける事が出来た。
この時時計を見ると既に10時半を回っていた。

氷枕を頭の下に入れて男性の様子を伺う。

この時初めて男性の顔をゆっくり見る事が出来た。
目鼻立ちがしっかりしていて、世間で言うところのイケメンだ。
身体もスポーツか何かやっているようで、細身の割りにしっかりと筋肉が付いている。

男性に対して色っぽいという表現を使っていいのか分からないが、熱のせいで少し苦しそうに眠っている姿は不謹慎だがとても色っぽい。

『すごくカッコイイ人だったんだ』

改めて気づいたら凄く恥ずかしくなり、今更ながら頬を染める優。

「お腹すいちゃった!」

慌てて視線を逸らし誰も聞いていないのに、独り言を言って立ち上がるとキッチンに向かう。
そして気づいた。
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