一途な御曹司に身も心も奪われ虜になりました
トイレへと駆け付けるとそこには菅原くんの体にグッタリともたれている耀の姿があった。
「大丈夫ですか?!」
覗き込んだ耀の顔色は青白い。
口元を手で押さえている。
吐き気でもあるのだろうか。
お酒は嗜む程度にしか飲んでいなかった。
それとも少し口にするだけで具合悪くなってしまうのだろうか。
本人は飲めない訳ではないと言っていたけど、あの時、きちんと確認しておけば良かった。
後悔の念が湧いてくる。
「すみません。これはいつものことなんです。少し休めば大丈夫ですから」
まるで私の考えを読んだような答えを耀は小さな声で言った。
「でも具合悪いことに変わりないですよね?もう帰りましょう。すぐにタクシーの手配をしますから」
背後にいる里香に目配せすれば里香は店員さんを捕まえて、タクシーをお願いしてくれた。
その間、私は耀の体を支える菅原くんと反対側に回り、脱力している耀の脇に入り込み、菅原くんと一緒に立ち上がった。
背が高い分、バランスが悪い。
でも想像しているよりはるかに耀の体は軽かった。
「タクシー来ないかな…」
耀の体を心配するあまり気が急いてしまう。
ただこんな時に限って電車が遅延し、タクシーが出払っているらしい。
店内では人目に触れてしまう。
他のタクシー会社に連絡してくれている里香を見るも、首を左右に振られてしまった。
「すみません…」
謝る耀の声は耳元で聞いていても聞き取りにくい。
具合がどんどん悪くなっているのがはっきりと分かる。
「病院に行きますか?」
菅原くんも同じように思ったのだろう。
でも耀は首を左右に振った。
「でも…」
このまま家に帰してはいけない気がする。