一途な御曹司に身も心も奪われ虜になりました
でも心の病は身の病とは違い、ひと目で分かるものではない。

幼い頃から本心を隠していた分、親も気付かない。

しかもそういう時に限って耀は本気で具合が悪くなる。

だから余計に親の目が届かなくなっていた。

俺だってこんなに苦しんでいるのに。

耀ばっかり…


『もういい』


何かがプツリと切れた。

具合が悪くて体を起こせない耀と、耀を介抱する両親を遠巻きに見て俺は小さく呟いた。


『もういい』


家を出る。

二度と戻らないと決意して。

でも耀は、耀だけは俺の異変に気付いた。


『お父さん、お母さん、僕は大丈夫だから兄さんのところに行って!早く!兄さんを守って!兄さんを捕まえて!兄さんを助けて!お願い!早く!早くっ!』


俺の心を代弁するよう切羽詰まった悲痛な耀の叫び声が家中に響き渡り、玄関のドアノブに手を付けていた俺は立ち止まった。

そして玄関先で声を出さずに泣き噦った。

いや、出せなかったと言う方が正しい。

俺はその時にはもう、親の前で素直に泣き声や気持ちを声に出すことが出来なくなっていたんだ。

それは親も同じで、それまで関わっていなかった分、俺の扱いに困っていた。
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