一途な御曹司に身も心も奪われ虜になりました
この嘘を明かしたわけではない。

ただその先輩は実力重視で、人を見かけで判断することのない公正な人だっただけ。

その分、仕事に対する姿勢は厳しく、何度となく挫けそうになった。

それでも必至に食らいついていたら研修期間を終えた辺りから、社員の方たちとの食事の場に私を連れて行ってくれるようになったのだ。

そしてその度に私のことを『真面目で努力家でいい子』と言って紹介してくれた。

人望の厚い先輩だったから、『彼女が言うんだから間違いないんだろう』って言って私のことを受け入れてくれて、敵視されがちな女性社員の方たちの輪の中にも入れるようになった。

嬉しかった。

ずっと同性の輪の中に溶け込むことに憧れていたから。

良好な関係を続けたいって必死になった。

先輩の好意を無にしないように普段言わないような冗談を言ったり、日本酒を煽るように飲んだり、エイヒレを食べたり。

気取らない女を演じた。

本当は日本酒よりワイン、エイヒレよりチーズが好きだけど、そんな姿を見せて気取ってるなんて思われたくなかったから。
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