一途な御曹司に身も心も奪われ虜になりました
『悪く言われてるのに笑えるんだから大したもんだよ。それとも人の気持ちに疎いのか?きみみたいな見た目だけの子はさっさといい男捕まえて辞めるべきだ。当社にはいいシステムがあるじゃないか。プライドが邪魔するなら俺から推進課に連絡しておいてやるから。他の社員の気に触れないうちに円満退社しろ』
ヨケイナオセワダヨ。
そう言ってやりたかった。
でも二度目の反論はしなかった。
私はバカにされる程バカじゃない。
ここで反論したところで場の雰囲気を悪くするだけだって分かる。
まして私への罵倒だ。
こんなの慣れてる。
手のひらを握り締め、悔しさを逃せばいい。
丁寧に磨いていた爪が、手のひらに食い込むほどに。
そして『こんな会社辞めてやる』と心の内で叫けばいいんだ。
ただ、今だに辞めずにいるのはその場にいたひとりの人物が私の怒りを納めてくれたから。
『人事部長が何言ってるんだか。退社を勧めるなんて縁起でもない。僕はね、辞められたあの女性に一目置いていたんですよ。丁寧で細やかな気配りは素晴らしかった。辞められてしまったのが惜しいくらいに』
まるで辞めるべきは私の方だと言わんばかりの言葉に傷が上塗りされた。
でもその人は私を責めているわけではなかった。
先輩のことを食い止められなかったのは推進課職員のフォローが足りなかったからだと言い、そして部長の言葉の上げ足を取った。
『実力なんて要らないとかなんとか言っていましたが、容姿も実力のうちなんですよ。見た目が成績を左右することは大いにある』
そこまで言うと、それまで真顔だった表情崩し、お酒をひとくち含んでから続けた。