一途な御曹司に身も心も奪われ虜になりました
『朝から彼女に笑顔を向けられると得した気分になって仕事が捗るっていうのは僕だけじゃないんじゃないですか?彼女の笑顔見たさに他者から足を運ぶ男も、毎日きちんと出社する男もいるという話を聞いたことがありますよ。事実、ここにいるみんなはどうだ?彼女の笑顔につかの間癒されてないか?』
『あ!それ、分かります!営業先でコテンパンにやられて凹んで帰って来ても佐々木さんに笑顔で『お疲れ様です』って言われると疲れが吹っ飛ぶんですよ』
『俺もー!』
お酒が入っているとは言え、その人の部下と思われる人たちが一斉に賛同した。
それを見て満足そうに微笑み、私にひとつ頷いて見せたその人の気持ちに、涙が出そうになった。
今まで誰も私を守ってくれはしなかったから。
だからその日、帰宅してから自分を磨き、翌日にはいつも以上に丁寧にメイクをして、彼が現れるのを最上級の笑顔で待ち構えた。
『おはよう』
爽やかな笑顔に完全に心を奪われた。
恋人がいるという嘘の情報を、自らの手で推進課の前に置いてある個人情報ダダ漏れのタブレットから消したほどに。
ただ、状況は悪くなる一方だった。
私がフリーだということを機に近付いてくる男性は増え、さらにその男性たちを狙っていた女性たちから敵視されるようになってしまった。
そしてあの場に同席していた女性が、『佐々木さんは体を売って重役を味方に付けている』という噂を流したせいで好色と嫌悪の目に挟まれてしまったのだ。