一途な御曹司に身も心も奪われ虜になりました
「菅原くん?」
「ごめん。なんでもない。それより…」
そう言うと菅原くんは里香の方を見た。
ひとり肩を落としたまま俯く里香。
その小さな助けを請う体にもう一度手を伸ばす。
でもその手は優に止められ、立ち上がった優が里香の肩に触れた。
「気に病むな。きみが悪い訳じゃない」
「いえ。私が悪いんです。でもこれで分かっていただけましたよね?優さんが褒めてくれたような人間じゃないって」
里香の暗い声に対し、優はその場に跪き、里香の顔を覗き込んで優しく話しかけた。
「きみの思惑がなんであれ、ひとりきりでいた耀を助けてくれたことに違いはない。きみは本当に優しい人だよ」
そこまで言うと優は里香の手を取った。
でも里香はその手を離した。
「優さんが優しいと言ってくれても、私自身、優しいなんて思えない。その証拠に耀さんの具合が悪くなった。耀さんが証明してくれてるんです。私はダメな人間だって。だから私に近づかないで。耀さんもそれを望んでるはずです」
「それは違いますよ」
菅原くんが里香に言う。
「耀さんは優さんの佐々木さんへの気持ちを知って俺たちに頭を下げたんです。『兄の恋をお願いします』って」
菅原くんの言葉に里香が私を見た。
だから小さく頷いてみせたのに、里香は頑なで、首を左右に振った。
「そんなの信じられない。私は耀さんと関わってはならない人間だもの。耀さんの具合を悪くさせてしまうだけの存在だもの。裏表があって、嫉妬にまみれた最低の人間なんだから」
膝の上でギュッと握り締めた里香の手を優がまた取った。
そして何度か優しく撫でた後、ゆっくりと里香を見上げた。
「最低の人間なら人を助けたりしない。どんな理由があっても。だからきみは最低なんかじゃない。むしろきみは実に人間らしい。裏表があるなんて当たり前だし、その方が人として面白いだろ」
優の言葉に里香は俯いていた顔を少しだけ上げた。
でもすぐにまた俯いてしまった里香に優は言葉を重ねた。
「俺はきみと似たような人間だ。だからきみのことを俺は受け入れられるし、理解出来る。自分のことを嫌いな部分は頂けないが、俺は野心家を嫌いじゃないし。それに話を聞いて俺はきみにさらに惹かれたよ。もっと知りたいと思う。だから俺はこれからもきみと関わるつもりだ。そして俺に関われば自ずときみは素直になる。俺を好きになるはずだ」
その自信はどこから…と言いたくなるけど、優の自信に満ちた笑みと彼の優しさ溢れる言葉に触れて、里香は肩を震わせた。
その背中を見て、里香がどれだけの計り知れない想いを胸に閉じ込めていたのかを見た気がした。
そしてその背後ではいつのまにか起き上がっていた耀が兄と似た笑みでふたりを見つめていた。