一途な御曹司に身も心も奪われ虜になりました
男女各12名。

男性はテニスの経験者ばかりで、女性は経験者と未経験者がちょうど半々。

みな、普段のスーツとは違うテニスウェアを身に付け、やや興奮気味だ。

コスプレ、とまではいかないが、夏に主催される花火大会も浴衣を着せてあげると雰囲気が変わり、気分が高揚し、立ち振る舞いも綺麗になり、2割、いや、3割増しになり、カップル成立率がおのずと高くなる。

今回もそれを期待してレディースは可愛い服を、メンズはスタイルの良く見える服を用意した。

経験者の中には自前の服を用意して来た人もいる。

でも推進課の用意した服の方がいいと着てくれれば用意した甲斐がある。


「やっぱり餅は餅屋ね。テニス経験者の美羽ちゃんに服選びを任せて正解だったわ」


蓮見さんに褒められてさらに嬉しくなる。

ただ今回は特別な参加者がいる。


「あの子よ、耳の聞こえない子」


蓮見さんが視線を向けたのは色白で細くて小柄で長い黒髪のポニーテールと大きな瞳が可愛い女の子。

田辺久美さん、入社2年目の23歳だ。

テニスの経験者ということで参加を希望してくれた田辺さんは参加者から離れた部屋の片隅でひとりで立っていた。


「おはようございます」


口を読めるという田辺さんの側に行き、なるべく滑舌良く口を動かし、話しかける。


「こちらに来てもらえますか?まずあなたのことをみなさんに紹介しますから」


ニコリと微笑み、小さく頷いた田辺さんに釣られて私も笑顔で頷く。

そして参加者全員が始まっている場所へと誘うとすぐに課長の挨拶が始まった。
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