一途な御曹司に身も心も奪われ虜になりました
試合は順調。
ワー、キャー、ガンバレー、という楽しそうな、童心に戻ったような声が室内に響く。
中でも注目を集めているのはやはり田辺さんと元木さん。
ふたりともテニスが上手い。
息もピッタリ。
弾けるようなふたりの笑顔は場をさらに盛り上げる。
1試合目を終え、水分を補給している田辺さんの元へメモ帳を持って近付く。
『楽しそうですね』
肩を叩き、そのメモを見せると田辺さんは満面の笑みで頷いた。
そして私の手からメモとペンを取った。
『とても楽しいです。思い切って参加して良かったです』
そう言って貰えると主催者側としてはとても嬉しい。
『いい人はいましたか?』
世話役としての仕事も忘れない。
他の人と同じように田辺さんに聞くと彼女の視線は他のチームの応援をしている元木さんへと向いた。
『元木さんは優しくてとてもいい人ですね』
先に書いて見せると田辺さんはニコリと微笑み、頷いた。
でもまた元木さんの方を見た田辺さんの表情が急に翳った。
そちらの方を見れば何人かの女性が声を掛けていたのだ。
「モテる要素が多いもんなぁ」
独り言を呟くと、聞こえていないはずなのに田辺さんは頷いた。
そして私の手からメモを取り、サラサラと書いた。
『あの中にいるショートカットの女性が元木さんのことを好いているようです。私は彼女の邪魔をしたくない』
どういう意味か分からず大きく首を傾げて見せると田辺さんは切なく微笑み、また書いた。
『私はハンデがあります。同情されます。優しい元木さんのような人は優しくしてくれる。ただその分、元木さんを好きな人には嫌な思いをさせてしまう』
「でもそれって」