一途な御曹司に身も心も奪われ虜になりました

「あ!」


気になる人の欄には『田辺さん』の名前が書いてあった。

胸がキュッと締め付けられる。

一瞬で高揚する気持ち。

この瞬間がたまらない。

この瞬間と両想いになった男女のはにかむ笑顔が見たくてこの仕事を続けていると言っても過言じゃない。

でも…


「田辺さんは元木さんの名前を書いてないよ」


菅原くんに言われて慌てて彼の手から田辺さんの回答用紙を取る。

そこにはたしかに誰の名前も記入されていなかった。


「なんで…」


もし元木さんの名前を書かれていたら互いの回答用紙にハートマークを書いてあげられたのに。

これでは書けない。

もちろん田辺さんの方には元木さんが想いを寄せていることを書くことは出来る。

ただ元木さんには彼を想う別の女性の名前しか書けない。

こうなると元木さんの想いがブレる可能性が高くなる。

もちろん元木さんが最後まで田辺さんへの気持ちを貫く可能性もある。

でも片想いなんだと知って、気が移ることも考えられるんだ。

だって彼らは皆、恋人が欲しくて参加しているのだから。


「先に田辺さんに話したらいけませんよね?」


課長に相談するも、課長は難しい顔をして否定した。


「田辺さんだけを特別扱いするわけにはいきません」

「そうね、元木さんを想う他の女性のことも考えないと」


蓮見さんにも言われて閉口する。

でもふたりは現時点で両想いなんだ。

アンケート用紙を返し、結果を見ているふたりに目を配る。

するとあれだけ上手くいっていたプレーがぎこちなくなり始めてしまった。
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