一途な御曹司に身も心も奪われ虜になりました
元木さんは見た感じさほど変わらず、田辺さんに接しているけど、田辺さんは気になる人の欄に元木さんの名前を書けなかったことを後悔してるようだ。

そのまま試合には負け、別のグループが優勝。

悔しがる面々と喜ぶ面々と、各々色んな気持ちを携えて、 着替えを済ませ、テニスコート近くに予約したお店に入り、立食パーティーへと移る。


運動した後の食事やお酒は美味しい。

テニスで仲良くもなっているため、会話も弾む。

場は明るく良い雰囲気に包まれている。

ただ、部屋の端でひとりビールを飲んでいる田辺さんを除いて。


「大丈夫?」


肩を叩き、顔を覗き込むようにして見ると田辺さんは私に気付いてニコリと微笑んだ。

でもその笑顔が弱々しくて胸がチクリと痛んだ。


『アンケートの結果見た?』


コクリと頷く田辺さんは私の手からメモとペンを取り、ゆっくりと書いた。


『後悔してます。勇気がなかったこと。もう望みはない』

『そんなことない。今ならまだ話せる。キッカケなら私が作ってあげる』


今、元木さんは彼に好意のある女性たちに囲まれているけど、その隙をぬってふたりに会話をさせることくらい、世話役の私には出来る。

田辺さんはただお願いします、と書いてくれればそれでいい。

それなのに完全に離脱してしまった彼女は首を左右に振るばかり。


「本当にいいの?」


文字にせず、直接目を見て言っても気持ちは変わらないらしい。

切なく微笑み、大きく首を縦に振った。


『いい経験になりました』


そんな…

元木さんのような人と巡り会えるかなんて分からないのに。

せっかくいい人と出会えたのに。

もどかしい。

歯がゆい想いを抱えながら最終的な用紙を手渡す。


「これに気になる人の名前を書いて」


でも田辺さんは誰の名前も書かず、元木さんは別な子を選んだ。

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