一途な御曹司に身も心も奪われ虜になりました

「それなのに田辺さんに耀さんを紹介しようとしてるの?田辺さんには荷が重いと思わない?田辺さんは一見明るく見えるけど、耳が聞こえない彼女はどこか引け目を感じてる。だから元木さんのことも他の誰かが狙ってるって分かって身を引いたんじゃないの?」


菅原くんの言う通りだ。

田辺さんは明るく元気に見えるけど、恋愛に関してはかなり後ろ向きだった。

それにおそらく田辺さんは元木さんに想いを残したままだ。

そこに耀が気付かないはずがないし、引け目を感じる田辺さんの気持ちに耀が感化されてしまうだろう。

真っ当な菅原くんの意見にぐうの音も出ない。


「でも、それならどうしたらいいの?」


田辺さんも耀も放ってはおけない。


「田辺さんには他の人を、耀さんにはすでに心を開いてる人を当てるしかないんだよ」


菅原くんは少し苛立たしげにそう言うと、真面目な顔でもう一度同じ質問を私に問い掛けた。


「美羽ちゃんは耀さんにどうなって欲しいと思う?耀さんのこと、どう思う?」

「私は…」


耀にも幸せになってもらいたい。

恋愛をしたくないわけじゃないなら、恋愛をして、恋愛による幸せに触れてもらいたい。

いつも笑顔でいて欲しい。

人と距離を置くんじゃなくて笑顔で接して欲しい。

もし私に出来るなら、笑顔にしてあげたい。


「笑顔にしてあげたい、か」


フッと力が抜けたように私の言葉を繰り返した菅原くんにあえて付け加える。


「言っておくけど、それは耀さんに限ってじゃないよ。田辺さんも、他の人も推進課を頼ってくる人も、全員、笑顔になってもらいたいって思う」

「いや、違うよ。違わないかもしれないけど違う。美羽ちゃんは耀さんの笑顔に触れるとすごく嬉しそうにしてた。話すのだって楽しそうだった」


それは耀の体質を知らなかったからであって、知った今、同じように話せるかと言われたら無理だろう。


「そんなことないよ。美羽ちゃんは特別な人だから」
< 145 / 194 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop