一途な御曹司に身も心も奪われ虜になりました
菅原くん?

なぜここで菅原くんの名前が出てきたのか分からず首を傾げると、察した耀が斜めがけにしていた鞄から封書を取り出した。


「それ、お笑いのライブチケットですよね?」


菅原くんから一緒に見に行こうと誘われたものだ。

耀も誘っていたのだろうか。

だとしても、そんなこと聞いてない。

困惑する私の前で耀が後ずさった。


「すみません。僕が来るなんて思ってなかったですよね。すみません」


思い詰めたようにペコペコ謝る耀を見て、本当に気持ちが伝わってしまうのだと実感した。


「気にしなくていいのに…なんて、それは無理なんですよね」


そう言うと耀は顔を上げ、困ったような顔をした。


「兄に聞いたんですよね、僕の体質のこと」

「ごめんなさい。勝手に聞いてしまって」


謝ると耀は首を振った。


「いいんです。別に隠している訳ではないですから。ただ…」


言い淀む耀の言葉の続きが私には分かった。


「『知られてしまったらもう僕に関わって貰えなくなる』」


代わりに答えると耀は切ない表情で小さく頷いた。

それを見て、胸が締め付けられる。

たとえこの気持ちが同情であったとしても、そんな風な顔をさせてしまったことを申し訳なく思う。


「今まで会おうとしないで、ごめんなさい。今も嫌な気持ちにさせてしまいましたよね?」

「いえ、大丈夫です」


すぐに否定した耀の言葉に驚き、背の高い耀を見上げると、照れたように後頭部を掻きながら答えてくれた。


「吉木さんといる時はあまり具合が悪くならないんです。吉木さんは気持ちの切り替えが早いですよね?先日のお食事の時、吉木さんが何度となく場の雰囲気を変えてくれたおかげで僕はあの場にしばらくいることが出来ました。それとあの日にも言いましたが、吉木さんはあまり裏表がないです。だから大丈夫なんです」


たしかに気持ちは引きずらないように、早く切り替えられるように昔から訓練されてきてはいたけど。
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