一途な御曹司に身も心も奪われ虜になりました
「でも私、人の気持ちに鈍感です」
というより鈍感でいた。
テニスの試合で負けて悔しくて泣く相手に同情してたら上を目指すことは出来なかったから。
仲間の嫉妬から逃れるにも、人の気持ちに鈍感でいることは必要だった。
こんな自分が人の気持ちに寄り添う今の仕事をしてるのは改めて考えると不相応な気がする。
「それによく悩むんですよ。人の気持ちが分からない上にバカだから答えが出ないことが多くて、ウーって唸りたくなることがよくあります」
「ハハ。でもそれは頭で考えていることですから、僕には伝わらないです。悩んでるんだろうな、程度です。さすがにエスパーではないので」
そういうものなのか。
感覚的な問題だから当然私には分からないんだけど、それより笑顔。
やはりこの笑顔からはどうも目が離せなくなる。
この笑顔をずっと見ていたい、笑顔でいさせてあげたいと思う。
上から目線の同情かもしれないこの気持ちが伝わってしまったら、耀に申し訳ないのに。
「それならいっそのこと、正直に言った方が良いのかも」
独り言のように呟くと耀は不思議そうに首を傾げていた。
でも耀にはきっとそれがいい。
きちんと視線を合わせて思っていることを素直に口にする。
「私、耀さんの笑顔とても好きです。笑顔でいて欲しいと思います。それに私が出来ることがあればいくらでも言ってください」
「あ、ありがとうございます」
突然の褒め言葉に耀が照れている。
何度も瞬きを繰り返し、モジモジと落ち着きなくしている。
そんな姿を見て、さらに愛おしさと何かしてあげたいと思う気持ちが増す。
それに普通に接していれば特に耀の具合も悪くならなそうだ。
耀自身も私と過ごすのは大丈夫だと言ってくれたし。
あまり気にし過ぎていたことを反省する。
そして気分新たに辺りを見回し、菅原くんの姿を探す。
「遅いなー。なにやってるのかな」
時計と周囲を交互に見る私に耀が小さな声で言った。
「菅原さんは来ません」
「え?なんでですか?」
聞けば耀は俯いたまま答えた。