一途な御曹司に身も心も奪われ虜になりました
「付き合ってみますか?」
「で、でも吉木さんは僕のことなんか好きじゃないですよね?」
意識したことはなかった。
でも私は田辺さんのことで勉強した。
恋にはタイミングが大事だということ。
ここを逃したら私は耀との関係が切れてしまう。
田辺さんと元木さんのように。
少しのすれ違いでダメになってしまう。
それは嫌だ。
少なくとも私は耀と離れるのは嫌だ。
「本当にいいんですか?」
恐る恐るといった様子の耀を見つめ、正直に言葉にする。
「私、イケメン好きなので」
ニカッと笑って見せると耀は照れたように後頭部を掻いた。
そしてふたり並んでお笑いのライブ会場へと向かう。
が、問題が。
イケメンの耀と私とでは差があり過ぎるのだ。
ショーウィンドウに映る私たちはまるで美女と野獣の逆バージョン。
「僕は吉木さんのこと、か、可愛いと思いますよ」
ショーウィンドウから耀に視線を移すと真っ赤な顔が飛び込んできた。
チラッと私を見る視線も、すぐに逸らされてしまったけど、それが余計に本当のことのように思えて、社交辞令だとしても嬉しく思えた。
「ありがとうございます。自分に自信、持つようにしますね」
「なに言ってるんですか。吉木さんはそのままで本当に素敵です。だから僕なんかじゃなくて…」
照れの限界なのか途中で言い淀んだ耀。
それでもどこまでも私を褒めてくれることがくすぐったくて嬉しくて。
これが耀でなければ建前でしか聞こえなかったと思う。
でも嘘に敏感な耀だからこそ嘘を口にしてるとは思えないのだ。
それが余計に恥ずかしくて歯がゆいのだけど。
だから照れ隠しに先に歩き出し、明るく話題を変えることにした。
「お笑いのライブですが、人混み大丈夫ですか?」
「あ、はい。コンサート会場や祭りの場などの人の心が楽しさで溢れる場はなんてことないんです」
自分の気持ちも周りと同化して高揚するらしい。
婚活イベントに参加したのは兄のためでもあるけど、あの場が楽しいものだと思ったからだとも教えてくれた。