一途な御曹司に身も心も奪われ虜になりました
「でも、僕は忘れていたんです。恋愛事は色んな感情が蠢くということを」
どんなに幸せで楽しそうで素敵な人でも、恋愛が絡むと負の感情が現れ、暗い影となる。
エンパスの高い人間にとって、嫉妬や嫌悪、怒りなどの負の感情に触れると想像以上に体に負荷が掛かるのだ。
イベント会場では相当辛かっただろう。
今更になってその痛みを分かっても無駄かもしれない。
それでも肩を落とす耀を見て、空いている手を握った。
驚き立ち止まった耀を見上げ、視線を交えて想いを言葉にする。
「他人の恋愛については巻き込まれてしまえば仕方ないです。でも自身のことは負の感情なんて気にならないほど楽しめばいいんだと思います。耀さんが辛そうな時は私にだって分かります。そんな時は私が明るくしてあげますから。反対に私の気持ちが落ち込んでたら耀さんが私の気持ちを変えてください。そうすればきっと恋愛事も良いものだと思いますよ」
「で、でもどうやって」
具体的に聞かれるとすぐに答えは浮かばない。
でも答えはもうすでに実行していた。
「こうして手を繋ぐだけでも一気に気持ちが変わりませんか?」
繋がれている手を視界に入るようにグッと持ち上げると耀は何度か頷いた。
「こうして頭を撫でるのも、気持ちが変わりますよね?」
繋いだ手と反対側の手で耀の頭にそっと触れる。
「一度だけ、最後のテニスの試合の時、母がこうしてくれたんです」
ずっと私はコーチから気持ちをコントロールしろと言われていた。
そのせいで試合に勝っても負けても感情を表に出すことはしなかった。
ケガで選手生命を絶たれた時も、相手選手に心配させまいと痛くないフリをした。
でも本当はものすごく辛かった。
「押し殺していた気持ちを表に出すキッカケをお母様がくれたんですね」
耀の言葉に頷き、頭に触れていた手を下げる。