一途な御曹司に身も心も奪われ虜になりました

「あの時、それまでコーチに任せっきりでいた母が医務室に来て、頭に優しく触れてくれたんです。そこで初めて涙を流せた」


あの場で泣けなければ前に進めなかった。


「だから人の温もりに触れると気持ちが変わるんじゃないかって思ったんです」

「でもそれって誰でもいいわけじゃないですよね?」


耀の言う通りだ。

あの時は母だったから良かった。

きっとコーチでは感情は出せなかったと思う。


「コーチにもたくさん愛情かけてもらったんですけどね。恩返し出来ないと思ったら余計にツラくて」

「僕は吉木さんの力になれますか?」


思い出して切なくなっていた私の気持ちを察した耀が私の両手を強く握りしめてくれた。

その気持ちが嬉しくてマイナスからプラスへと変わる。


「分かります?」


気持ちに変化があったことを訊ねると耀は俯きがちにはにかんで頷いた。

それを見て余計に胸に温かなものが流れる。

好きというより愛おしい。

そんな感情をいつのまにか抱いていたことに驚きつつも、手を繋いで会場へと進む。
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